2001年1月8日月曜日

瀬名秀明:八月の博物館

本を買うときに、まず帯を読んだ*1)。瀬名秀明だが今回は、バイオものではないようだ。残念ながら私は瀬名のファンではない。数年前に「パラサイトイブ」を読んだ。持っている本が第9版だから、かなり売れてから読んだようだ。確かに面白かった。







「目の前の景色が突然消えた」


今までにない展開を予測させるこの書き出しだけで、読む気になったものだ。ミトコンドリアがなぜあんなになるのか(^^;;という荒唐無稽さを問わせない勢いがあり圧倒された。


でも、その後の「BRAIN VALLEY」は読まなかった。買おうとした時、瀬名秀明は既にあまりにも売れすぎており、本をカウンターに持っていくのが気後れしてしまったようだ。


鈴木光司もそうだった。「らせん」「リング」と読んだ。こんな怖くて面白い小説があるのかと小躍りした。それから半年後、世の中は「リング」と貞子ブームになった。そうしたら、もう鈴木の小説を読む気にならない。


今店頭に並ぶ続編は、本当に彼の書きたかった小説なのか?商業主義に乗って出版社に勧められて書かされているのか?それを判断することはできない。


今回この本を読む気になったのは、瀬名が貴志祐介の「天使の囀り」文庫版に解説を書いており、その解説のスタンスが気に入ったからだ。


彼は書いている。「読み終えた直後、『これには適わない』と私は思った」と、そして、「貴志祐介のさらなるファンになっていたのだ」と。


瀬名のHPがあることを知り読んでみた。そこに作家の内面を吐露するような文章を見つけた。こんなにもナイーブな作家が、自分の得意分野らしきものから離れてどんな小説を書くのか、単純に興味があり本書を手にとったのだった。実際、ホラーやサイコミステリーものに食傷気味でもあったし(そんなに読んでないけどね)。


前置きが長くなった。しかし、ここでは小説のネタばらしのような話は一切しないつもりだ。


もしかしたら、この小説は、売れないかもしれない、という気がする。考え抜かれたプロットの回りくどさや逡巡が、どうしてもページを繰る速度を鈍らせてしう。テーマは別のところにあるのかもしれないが、少年たちが主人公なところにも、何かジュブナイル小説を読んでいるような気にさせてしまう。これを読む前に「モモ」なんか読んでいたせいだろうか。


主人公の「亨」が非常に優等生であることも、気にかかった。そもそも小説の主人公て、どこか欠点をもった、ダメな奴として書かれるものじゃあないのか、瀬名の少年時代をモデルとしているのなら、なおさら優等生の小説を読んでいるような、そう、小説の中の「啓太」のような気持ちにもなってしまうのだ。



そんな、こんなで、期待と不安と逡巡が織り交ざった思いを持ちながら、ラストになってしまった。帯にあった「かつて誰も経験したことのない<感動>」というものは、残念ながら得られなかった。



反論もあろうが、小説の中で一番魅力的人物は鷲巣だった。鷲巣は良く描かれている。亨と鷲巣だけで、短い夏の物語が書けるほど魅力的な背景と人物だ。でも瀬名はそうしなかった。



また、小学校最後の夏休みと、「どこでもポケット」のような不思議な博物館、これだけでも読者をひきつけられる話を書けたのに、どうしてあんなに回りくどい構築の仕方をしたのだろかと思う。実話の匂いをもたせた二つの物語を並行に進めながら。



作者のてらい、あるいは あざとさ?



がだ、ここまで書いて、私は一体どういう種類の<感動>をこの本に求めたのだろうかと ふと自問してしまった。めくるめく物語の嵐による感動の本流だろうか、甘酸っぱい感傷的な感動だろうか。作者が何をいいたかったなど分からない。分かる必要なんてなかったのじゃないか。感動するように書かれた文章の否定と肯定?。のめりこみと、はぐらかしの交差。


こうして考えるに、この小説からは別の種類の感動が表れることに気が付く。それはこの「小説の中の物語そのもの」が持つ感動ではなくて、自分の中でのあこがれや、忘れてしまった感動、懐かしさといった「自分自身の物語」に対する郷愁にも似た感動であった。それは非常に静かだが、また再び日常の中ではしまいこまれてしまう種類のものだ。自分の中では終わることのない物語でもあるのかもしれない。


またこの小説は「モノ」に付与された物語性という、もう一つのテーマも改めて思い起こさせてくれる。そういう意味からは、小説の面白さ、物の博物的面白さなどいろいろな事を考えさせてくれる小説である。

こんな二重性を考えさせてくれた瀬名に感謝。ストレートに次回の作品を期待したい。


  1. 単行本の帯より

    「あの夏、扉の向こうには、無限の「物語」が広がっていた。

    小説の意味を問い続ける作家、小学校最後の夏休みを駆け抜ける少年、エジプトに魅せられた19世紀の考古学者。3つの物語が融合して、かつて誰も経験したことのない<感動>のエンディングへと到る圧巻の1000枚!!

    人は何故「物語」に感動するのだろう。

    ��0年前の夏の午後、終業式の帰りにふと足を踏み入れた古ぼけた洋館。そこで出会った不思議な少女・美宇。黒猫、博学の英国人紳士。”ミュージアムのミュージアム”であるというその奇妙な洋館の扉から、トオルは時空を越えて、”物語”の謎をひもとく壮大な冒険へと走り出した。

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