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2021年3月1日月曜日

電線絵画展で電柱愛と日本の近代化、近代美術の発展を見る 練馬区立美術館

「電線絵画展」という意欲的な展覧会が、練馬区立美術館で2月28日から4月18日まで開催されています。初日に行ってきました。

サブタイトルは小林清親から山口晃まで。(過去の書込みを調べると、山口さんの<忘れじの電柱>のインパクトが凄い「望郷」と題された銀座エルメスでの個展を思い出します。開催は2012年でしたか、そんなムカシとは思えない程に歳をとってしまった)

 



最初は「電柱絵画」だと思っていたのですが「電線絵画」でした。道路や路地に電線と電柱が連なる風景は極めて日本的です。現代的な都会でも、史跡観光名所や田舎であっても目にする電線には、ネガティブな感情しか抱かないものです。一方で昭和的なノスタルジーは電柱や電線、屋根のある風景と重なります。

東京タワーやスカイツリーも一種の「電柱」ですが、考えてみれば、これほどに目立ち景観を激変させる構造物もないはずなのに、なぜかどちらも愛着を持って受容されているように思えます。芝の東京タワーに至っては、それがない風景は、もはや東京として考えられないほどにシンボリックです。

このように、自分を含めた日本人の「電柱」「電線」に対する思いは複雑であり重層化されているように思われます。そういう、うまいツボをついた展覧会であるといえます。また、電線、電柱化を日本の近代化の象徴ととらえ、それを描いた絵画を紹介することで、更には日本美術の近代から現代への流れを見せてくれるという、これまた二度以上ににおいしい展覧会になっています。まさに企画のうまさが光っています。

そういう展覧会ですから、所謂、展覧会評、展覧会紹介はあちらこちらで、これからも出てくると思いますので、ここでは自分の気に入った絵を、図録から拾って記しておきます。ちょっとネタバレぽいので、新鮮に展覧会を観たい方はスルーしてください。


第1章 晴れやか 誇り高き電信柱 では小林清親の「三囲神社」の水彩画(今回初公開)がなんとも言えません。淡い色彩の絵は達筆でほれぼれします。小林は水彩画を錦絵の下図にしていたとのこと。川鍋暁斎と山岡鉄舟の合筆になる「電信柱」も素晴らしい、というか、こんなものを「画」としてしまった二人に脱帽です。

第2章 晴れやか 誇り高き電柱 では秦テルヲの「煙突」が素晴らしい。秦は社会の暗部や弱者へのまなざしを描いた作家とのこと、この絵は電柱よりも圧倒的な大きさの煙突が主題、そこに配された女工への愛おしさを感じるやさしい絵です。

第3章 富士には電信柱もよく似合ふ。とありますけど、似合いませんって(笑)ここでも小林清親のスケッチが目を引きます。

第4章 切通しと電柱ー東京の増殖 |「切通し」といえば岸田劉生です。彼の代表作のロケ地を右側から描いた絵があるとは初めて知りました。場所も代々木だったんですね、二重の驚きです。

第5章 帝都 架線の時代|何といっても小絲源太郞の「屋根の都」が凄いです。ポスターにもなっています。絵に近づいて見ますと圧倒的な絵の具の塊り、しかし離れてみると、それが光や空気に替わります。印象派の影響を受けたのでしょうか、モネのルーアン大聖堂にも匹敵します。絵の解説に「朝日を浴び、陽の光はさざ波のように屋根を照らし、影をつくる」とありますが、そのままです。

第6章 伝統と電柱ー新しい都市景観は、やはり川瀬巴水(はすい)と吉田博の、電線を描く派、描かない派の対立が面白いです。心情的には電柱を描く川瀬に軍配なんですけど、どちらの木版画もため息が出るほどに美しく日本的です。

第7章 災害と戦争ー切れた電線、繋ぐ電信線|西沢笛畝の大正震災木版画集「黄昏の日本橋」が印象的です。日本橋麒麟像の後ろに崩壊した三越本店が描かれており哀しみと痛みを感じます。

第8章 東京の拡大ー西へ西へ武蔵野へ|目立ちませんが織田一磨の「高田の馬場付近」の水彩画が素晴らしい。解説はなく無視され気味の絵ですが、うすぼんやり光る太陽の光、かすむ街並みの表現が秀逸。この頃は、高田馬場も「武蔵野」の面影があったのでしょうか。

第9章 "ミスター電線風景"朝井閑右衛門と、木村荘八の東京とありますが、朝井のフォービズム電線画には執念さえ感じてしまいます。木村壮八の挿絵は素晴らしすぎて、これだけで画集があれば手元に欲しいくらいです。

第10章 碍子の造形|碍子が青磁か白磁かみたいな展示をされるとは、いったい誰が考えたでしょう、よくぞこんなジョークのような企画が通ったものです。まあ現代アートギャラリーとか工業博物館とかならありでしょうか。碍子に美を観る発想も日本的なんでしょうかね。

第11章 電柱 現実とイメージ|海老原喜之助の「群がる雀」が素晴らしい。絵に近づいて観ると、雀の筆致は数回のみ。達筆です。離れてみると紛れもなく電線に雀、魔法を見るかのようです。尾藤豊のプロレタリアっぽい絵画は少し苦手ですね。

第12章 新・電線風景|山口晃の電柱絵や『趣都』「電柱でござる」の巻 前編・後編 はお決まりとしても、山口英紀の水墨都市画、久野彩子の立体、阪本トクロウ作品まで集めたとは感服です。

というわけで、非常に盛沢山な展覧会です。観ておいて損はありません。図録もこの企画にハマった人は買うべきですね。

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最後は、帰り道の何処にでもある住宅街の電柱写真など貼っておきます。みんな縦画像になってしまった。美しいか??笑













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