2021年4月15日木曜日

コパチンスカヤとクルレンツィスのチャイコフスキー

クルレンツィスのベト7を聴くために、改めてこの盤を聴いたのですが、チャイコフスキーのバイオリン協奏曲の今までの常識、風景をまったく見事に覆してくれる演奏=録音だったので、簡単に記しておきます。



  1. チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.35
  2. ストラヴィンスキー:バレエ・カンタータ『結婚』

  • パトリシア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン:1)
  • Nadine Koutcher(ソプラノ:2)
  • Natalya Buklaga(メゾ・ソプラノ:2)
  • Stanislav Leontieff(テノール:2)
  • Vasiliy Korostelev(バス:2)
  • ムジカエテルナ、他
  • テオドール・クルレンツィス(指揮)

  • 録音時期:2014年5月(1) 2013年10月(2)
  • 録音場所:ペルミ国立チャイコフスキー・オペラ&バレエ劇場(1) 
         マドリード王立劇場(2)


クルレンツィスが凄いのか、コパチンスカヤが異形なのか。どちらもそうなのでしょうけれど、ここでは録音ということもあり、オケよりもコパチンスカヤのバイオリンが際立ちます。

すすり泣き、ツンデレ、甘え、訝り、高揚、退廃、躁鬱、疾走、爆発なとなど。

何とも豊かな情感がバイオリンの弦から聴こえてきます。土俗的でもあり根源的でもあるような、かすれた歪な響きがあるかと思えば、メロディアスな流れが出現したり。クルクル変わる表現はスリリングで、各フレーズがみな新しく、そこでそうくるか、と意表を突きます。

特に弱音での音色や鋭く引っ掻くような高音など、今までのこの曲では聴かれなかった音が鮮やかで、コパチンスカヤの独奏を聴くかのようです。

コパチンスカヤが奏でる音色は、多少重量感を欠くものの、逆にそれ故に生の人間の、微妙な感情の揺れ動きがそのまま表現されているかのようです。聴いていて恐ろしくなるほど、何度も鳥肌が立ち、目頭が熱くなりました。

それもこれも、自分がコパチンスカヤの演奏に慣れていないせいなのでしょう。

対するクルレンツィスは、やはり歌劇場のオケなのか、時にベタな表現もしてくれますが、煽りを効かせるとドンドン尖って走ってくれます。

第三楽章などは、コパチンスカヤとクルレンツィスが、がっぷり四つに組んでの壮絶な演奏が繰り広げられています。

なんといいますか、バロック界にイルジャルディーノ・アルモニコが登場したような、あるいは、スピノージが現れたような、全くのゲームチェンジさえ感じさせるような演奏です。

ヘッドフォンで聴いていたのですけれど、チャイコフスキーが終わった後、思わずそれをかなぐり捨て、心の中で「ブラボ!!!」と叫ぶ自分がいました。


続く、ストラヴィンスキーの「結婚」については、初聴。感想を書けるほどの音楽体験がないのでパスとします。


冒頭に書いたように、クルレンツィスを確認するためだったのですけど、感想はコパチンスカヤ一色になってしまいました。


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 その一方で,これほど過激で仰け反るほどに大胆な演奏を行っているというのに,聴いていて不思議と冷静な気持でいられますし,心奪われるとか,ゾクゾクするとかいった感じがあまりしないのです。

 これはどういうことかというと,大胆で過激ですらある演奏表現とはいっても,それは民族音楽や現代音楽にも通じたコパチンスカヤ自身が有している表現のイディオムに置き換えて弾いているために,実は型に嵌まっているところがあって,けっこう予測可能になっていることと,弾き崩しそのものが安定していて,スリリングさがないという印象があるのです。

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クルレンツィスとコパチンスカヤのチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」が、「朝日新聞」のfor our collectionで取り上げられています。

「鮮度が際立った演奏だ。協奏曲ではコパチンスカヤが予想を超えた振り幅の大きな演奏で魅了。ストラビンスキー「結婚」では、田舎の式典に足を踏み入れて戸惑うかのよう。」

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 大事なのは、それがよりよい音楽を生み出すための必然性を感じさせることだ。冷静に聴くとコパチンスカヤの音程は芳しくないところも多かったが、そういうことがあんまり気にならない。言うてもコパチンスカヤ42歳、クルレンツィス46歳。子どもじゃない。いろんなことを意図的に組み立てた上でムジカ・エテルナのメンバーとともに生命を燃焼し尽くしているような演奏であり、聴き手としても自分の命が炙られているような音楽体験だった。録音で聴くよりも解釈の奇を衒った感じはしないというか、変な言い方だが、パフォーマンスの凄さにユニークな解釈も飲み込まれてしまった感じ。心底面白かった。聴いてる方も集中力が高まってしまい、エネルギーが奪われる演奏。

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チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲、ストラヴィンスキー:結婚

コパチンスカヤ、クルレンツィス&ムジカエテルナ

テオドール・クルレンツィスのソニー・クラシカル5枚目のアルバムは、何とコパチンスカヤとのチャイコフスキー! 鮮烈なストラヴィンスキー『春の祭典』に続く2016年初頭必聴盤の登場です。

クルレンツィスは、これまで録音を発表してきたバロックや古典派のみならず、現代音楽まで幅広いレパートリーをカバーし、2015年はルール・トリエンナーレの『ラインの黄金』も振っています。オーケストラ曲では、特にチャイコフスキー、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチなどのロシア音楽を頻繁に取り上げており、2010年に音楽之友社「レコード・アカデミー賞」を受賞し、クルレンツィスの名前を日本の音楽ファンに印象付けたのもショスタコーヴィチの交響曲第14番『死者の歌』でした。

クルレンツィスと手兵ムジカエテルナによる最新録音はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。ソロを務めるのは。東ヨーロッパのモルドバ出身のカリスマ美人ヴァイオリニスト、パトリシア・コパチンスカヤ。2015年11月には極めてユニークな『TAKE TWO~ヴァイオリンと二人で~』というアルバムを出して話題沸騰中の彼女が、これまた話題の指揮者/オーケストラであるクルレンツィス/ムジカエテルナと組んで名曲中の名曲をついに初録音! 2011年にドイツ・ラインガウ音楽祭でフェドセーエフ指揮モスクワ放送響と共演した演奏が放映されて大きな話題を呼びましたが、この組み合わせはそれを大きく上回る反響を呼ぶこと間違いなし。

彼女は現代・近代音楽を中心とした作品の演奏に力を入れる一方で、ファジル・サイとの共演や、ヘレヴェッヘとシャンゼリゼ管弦楽団といピリオド楽器アンサンブルとベートーヴェンの協奏曲を録音するなど、自在な音楽を奏でる多様なベクトルを持つ名手。クルレンツィスおよびムジカエテルナとは最近では2015年8月のブレーメン音楽祭でメンデルスゾーンを共演し、2016年1月にはベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲でヨーロッパ・ツアーを行なうことになっています。

カップリングは『春の祭典』に続くストラヴィンスキー・シリーズで、比較的珍しい『結婚』。「歌と音楽を伴うロシアの舞踊」という副題と打楽器、4台のピアノ、独唱と合唱という特異な編成を持つこの曲の真価を、クルレンツィスが鮮烈なまでにえぐり出しています。


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